2012年6月1日金曜日

牛鬼滝|日本の竜蛇譚:近畿|龍学 -dragonology-



場所:三重県多気郡大台町
収録されているシリーズ:
『日本伝説大系9』(みずうみ書房):「牛鬼滝」
『日本の伝説39 紀州の伝説』(角川書店):「三尾川の牛鬼淵」
タグ:牛鬼


伝説の場所
ロード:Googleマップ

紀州も牛鬼伝説の多いところである。というよりも『まんが日本昔ばなし』の「こわい話」で有名な牛鬼淵の話が三重のものなので、一般的には牛鬼の本場と思われている土地かもしれない。紀州でもやはり殆どの牛鬼譚は水怪としてのそれである。明らかに一定の不気味さを持つ滝淵にはヌシとして牛鬼がいるのだ、という了解だったのだろう。


"ナイアガラの滝"パワー

県道三瀬大杉線に沿う上真手、本田両区の境を流れる浦谷川(村人は小谷ともいう)に、一本の橋がある。橋には両区の字をとって本真橋と名付けられている。橋から約二キロ奥に、高さ五メートルぐらいの清滝がある。滝つぼは二つあるが、一つは溜つぼで、昔は真っ青な水を満々とたたえ、滝の両側にはシイ、松、杉の古木が昼でも暗いほど茂って、恐ろしくて近寄れなかった。今ではかなり浅くなり、明るくなったものの、ウナギやアマゴをとるために滝の下に行くときは、自然に神秘の気が迫ってくる。
これが牛鬼滝で、村人は今でも近寄らない。昔、牛を連れた女が浦谷に行く途中、この滝の上の絶壁に来た。そのとき牛が何物かに驚き暴れ、女も牛も滝淵に落ちて惨死してしまった。それ以後、夜な夜な髪を乱した女と牛が出没して、山上ヶ岳(大峰山上権現)に参る人、浦谷や飯南に通う人を驚かした。困り果てた里人は、諸国を巡礼してこの地に泊まった高僧に祈とうしてもらったところ、女と牛鬼はいずれともなく消え失せたという。
前にも述べたもう一つの円筒形の滝つぼにも、一つの話がある。このつぼは深く〝底知らずのつぼ〟といわれている。このつぼに入った者は、だれもいない。このつぼは大台の池の底から続き、正月元旦の未明にここに来れば、大台ヶ原に住むという片腹のヒゴイが必ず遊泳しているそうである。(『ふるさとのしおり 三重の文学と風土』)